第6回(2017年5月18日) 出演:佐峰存さん
5月18日(木)にLUNCH POEMS@DOKKYOの第6回目を無事開催することができました。
ご来場いただいたみなさま、誠にありがとうございました。
5月18日は初夏と梅雨という相反するものが共存する天気の日でした。
2016年度H賞候補作『対岸へと』から詩を5編読んで頂きました。
佐峰さんは、小学生の頃より大学卒業までアメリカで13年間過ごされた経験があります。周りの人とコミュニケーションを取りたくても取れない経験が基礎にあり、この言葉にならない状態を書き落としていく過程で、自然にメモから詩という体型になり、詩を書かれるようになりました。アメリカでは高校までニューヨーク、大学はコネチカット州、現在は東京にお住まいで、場所のギャップをそれぞれ楽しまれています。
まず、「連鎖」という詩を読んで頂きました。
東京湾が身近にある環境で幼い頃と帰国後に暮らしている経験から、佐峰さんは東京=水のイメージをお持ちのようです。
ヘルマンヘッセの小説『シッダールタ』の「川は常にそこにありながら変わっている」という、水の流れは様々な解釈が可能であるという意味を含んだ1行より、佐峰さんは言葉も同じで一通りの解釈だけではなく、言葉そのものから受ける瞬間的なイメージを起点とした解釈など、様々な捉え方があると考えられました。そして、「連鎖」が書かれ詩集の一番最初に収録されています。
次に、自分自身の身体的な経験を言葉に置き換える実験的な詩である、「指に念じる
」を読んで頂きました。
ここでの「指」は佐峰さんの紛れも無い実体験が表現されています。
言葉でない感覚をいかに言葉の形にしていくか。そして、いかに言葉と言葉を繋げて感覚を越えられるか。実体験より確かな領域に踏み込めるか。そういった思考が佐峰さんの根底にあります。その意味でこの詩は、外側から入ってきたものを身体の感覚を通じて自分の中で確信に至り昇華させるのではなく、言葉によって心の中でより強い確信に至ろうとする試みの詩であると言えます。
次に、日頃の平日の体験をモチーフにされた「眠り支度」を読んで頂きました。
ここでは、深夜にタクシー帰りで疲れ果てた状態だったが書かずにいられなかったという佐峰さんのエピソードをお聞きすることができました。
この詩の情景はシンプルで、スーツを脱いで顔を洗う動作が描写されています。
どんな瞬間にも物凄く色々なものが詰まっていて、作品のきっかけになり得ることから、日頃の何気ない風景をまた同じ風景だと思いながらも、微生物の様な細かい感覚を広げて作品にされたようです。
次に、詩集『対岸へと』の最後に収録された作品である「黒い森から」を読んで頂きました。
この詩の根底には、言葉と言葉を繋ぎ合わせることによって、今まで存在しなかった感覚の世界を存在させることができるのかという佐峰さんの試行があります。
ここでは佐峰さんの言うところの、"言葉の地層性"について語られました。この世界に見えている全てのものは言葉によって出来ており、言葉と言葉を積み上げることによって世界そのものの立ち位置を僅かながら移動することが可能なのでは無いか。佐峰さんはここを起点として普段、詩を書いていらっしゃいます。特に「黒い森から」はそこを全面的に押し出した作品なのだそうです。
言葉同士がお互いを呼んできて、繋がっていき、言葉同士で作品を形成していく。これは、他の表現ジャンルとも共通するものがあるのでは?という考えより、ジャンルを跨いだ現代音楽の方ともこの詩を用いて活動されました。
最後に、佐峰さん自ら翻訳して頂き、英語で「砂の生活」を読んで頂きました。
これは、日本の現代詩は英語にした時にどういう作品になるんだろう?という試行になったそうです。英語にしていく過程で、難しい日本語の熟語が意外とシンプルになっていきました。これは英語でしか捉えられない感覚というものが存在しているからだ、と仰っていました。言語の体系によって、やはり感覚も変わっていくのでしょう。
質問コーナーでは、今を生きている感覚や詩との関連についてお話しされました。
現代は感覚で物事を感じながら言葉として昇華させていく流れの中で、色んな情報の持ち方だったり、コミュニケーションのあり方が多様になって来ていて、その中で言葉の使われ方も変わってきている。特に、言葉はその中に閉じ込めておくものではなくて、感覚を通じて感じていかなくてはいけないもの。良くも悪くも目まぐるしいこの世の中を表現と結びつけられないか虎視眈々と見て生活している。
同じ現代に生きる者として、言葉との付き合い方を考えさせられる回でした。
後日youtubeに動画をアップする予定です。
是非ご覧になってみて下さい。
次回は6月15日に三角みづ紀さんをお迎えします。
みなさんのご来場を心よりお待ちしています。
セットリスト
#1
「連鎖」
#2 「指に念じる」
#3 「眠り支度」
#4 「黒い森から」
#5 「砂の生活」(英訳 ver.)